第2回目も濃密な内容でした!!
- 物理の摂動論 vs. 数学の摂動論
- ヒステリシスを例に極限の順序交換
- 自己共役性(エルミート性,対称性,自己共役性)
といったキーワード中心に物理側,数学側それぞれの事情によって意思疎通がなかなかむずかしいことを教えて頂きました.
前回の補足事項
$H_0=-\frac{\hbar^2}{2m} \Delta$, $V_h=\frac{1}{2}m\omega^2 x^2$, $V_c = -\frac{1}{4\pi\epsilon_0}\frac{e^2}{r}$
についてそれぞれ基底状態のエネルギーは
$E_{0,f} =0$, $E_{0,\mathrm{harm}}=\frac{1}{2}\hbar\omega$, $E_{0,\mathrm{hydrogen}} =-\frac{me^4}{32\pi^2 \epsilon_0^2\hbar^2}$
$\omega$や$e$については連続性があるが,古典極限$\hbar\to0$も真面目に考えると難しい.
何についての摂動か?
ハバード模型$H=H_0+H_I$は$U>0$と$U<0$で全く状況が異なる.ある摂動パラメタが小さければ,$H_0$から連続性があるか?
行列レベルなら固有値の値自体は摂動に対して連続性があるが,固有値の性質は?
固有関数について,数学的連続性が物理現象にどう関係するのか?
有限ハバード模型を例に,縮退が生じる,摂動で解ける.ロバストネスのありなし〜繊細な物性を発現することの現れ.
縮退を解く摂動の例として,ゼーマン効果,シュタルク効果.
特に,回転対称性のあるハミルトニアン$H_h = -\Delta -\frac{1}{|x|}$に古典的外場による摂動項 $E_z z$を入れると,なんと,$H_s = H_h +E_z z$は下に有界でない,つまり基底エネルギーが$-\infty$!
なんという…
ヒステリシスと極限操作の入れ替え
普段磁性材料の系を扱っている私にとってもとても身近な例.
有限系のサイズ$n$とするとき,外部磁場$h$を$h\to0$の極限をとると,磁化はゼロになってしまう.つまり,ヒステリシスが再現されない.
ヒステリシスを出すには,$h>0$として$n\to \infty$の熱力学極限をとったあとに,$h\to 0$の極限をとる.
このように,極限操作の順序によって,物理現象を說明できたりできなかったりする例はいくらでもある!
さらには,温度というパラメタに依存して極限の順序交換が非自明な物理現象に関係していると!
たしかに,物理でも極限操作に敏感にならないといけない場面には色々と出くわすわけですよね.
学部1年のころに「〇〇収束」というのが解析の教科書に登場して,なんでこんな面倒なことをやらないといけないんだろう…と早々に脱落してしまった私ですが,こういった物性の例を知るたびに,あの頃の自分に伝えたいって,最近よく思っていました.
解析的摂動論が意味をもつとき
- 量子力学(有限自由度・有限粒子系)での摂動
- 場の理論において,スペクトルギャップをもつ摂動 (光学フォノン=材料組成に依存するモード)
解析的摂動論が意味をもたないとき
- スペクトルギャップなし(音響フォノン=組成によらないモード)
- QED massless粒子に関する摂動 $\to$ 埋蔵固有値の摂動論
共振回路のQED
量子相転移:結合定数$\kappa$の値(これは実験的にtunable)によって,基底エネルギーと1つ上の励起エネルギーが入れ替わる! 真面目にやろうとすると強結合領域を扱う必要あり.難しい
一方でフリードリクスモデルは扱いやすいらしい(楽しみ).これを例に関数論・解析接続の話をしていただける予定.
数学的摂動論
$H=H_0+H_I$で,何らかの意味で$H_I$が$H_0$に対して小さいときに,$H_0$に似た$H$の性質を捉える手法=数学的摂動論.
- 作用素の自己共役性
- 基底状態の存在
- 平衡状態の存在
といった定性的な扱いをする予定.
自己共役性の物理
物理的には,ハミルトニアンや物理量に自己共役性が必要な理由は,$H$はユニタリ発展の生成子であるべし,という要請,物理用の観測値は実数であるべしということから.
ところで物理で「エルミート性」と呼ぶものは,数学的には「対称性」であり不十分!(おお!)
対称作用素は,常に閉拡大であり,閉対称作用素のスペクトルはなんと,$\mathbb{R}$の閉部分集合に限らない!(おお!)一般に次の4通り:
- $\mathbb{C}$の閉上半平面
- $\mathbb{C}$の閉下半平面
- $\mathbb{C}$の全体
- $\mathbb{R}$の閉部分集合 なななんと!
作用素において,行列のエルミート性に相当する性質は,
- 作用素のエルミート性 $H$の定義域の元に関して $\langle\psi,H\phi \rangle = \langle H\psi,\phi\rangle$
- 対称性:エルミートであり,かつ,定義域が稠密性 (稠密でないと$H^$が定義できない, 対称性からは$H \subset H^$がいえるが,$H=H^*$まではいえない!)
- 自己共役性:$H=H^*$
さらに,運動量作用素の性質が境界条件によってがらりと変わることについて(おお!)
今回教えていただいた例の中でも,ヒステリシスを再現するための極限の順序交換の例は,同業者にもすぐに楽しんでもらえそうなので,早速布教していこうと思います!
数学へのモチベーションが上がりまくっています!!