理論物理学者に市民が数学を教えようの会 第5回

 

線型代数と微積分とからめて学ぶ回。

前回(第4回目)で、「線型汎関数」を始めとする数学の話についていっていないことを察知して頂き、今回は微分積分をからめた線型代数のお話をしていただきました。


まず線型性について。
重ね合わせの原理:波が従う方程式が線型微分方程式で、その解$u, v$が波なら$u+v$も波。


写像・関数・汎関数・作用素という言葉のニュアンスの違いについて。

写像:抽象的な状況であることを示唆
関数:実数値または複素数値の写像。つまり値域が$\mathbb{R}$ or $\mathbb{C}$を示唆(定義域は一般的)
汎関数:「汎」= 定義域が線型空間を示唆(汎「関数」なので、値域は$\mathbb{R}$ or $\mathbb{C}$)
作用素:「作用」の趣き。つまり値域が$\mathbb{R}$や$\mathbb{C}$とは限らない。

関数解析、解析学では線型写像=位相込で考えている


汎関数の例

定積分(ex.期待値)これは線型汎関数の例。
$
\begin{aligned}
I(f)=\int_\Omega f(x) dx
\end{aligned}
$

分散
$
\begin{aligned}
V[x] = E[(X-E[X])^2 ],\,\, E[X]=\int_\Omega X(\omega)dP(\omega)
\end{aligned}
$

シュワルツの超関数
$
\begin{aligned}
\delta_a(f) = f(a)
\end{aligned}
$
ここで、$\delta(f)$はディラックのデルタ関数で、Symbolicには、$\int_\mathbb{R} \delta_a(x) f(x) dx = f(a)$で与えられるもの。

d次元ベクトルに対してその第1成分を与える関数$\delta_1(v)=v_1$
ex. 微分形式 $dx^i (v) = v^i$
$dx^i \in T^*_xM$

微分係数
ある関数$f$に対してある点$a$での$f'(a)$を与える関数$f\mapsto f'(a)$

行列式やトレース
$A \mapsto \det A$, $A \mapsto \mathrm{tr} A$

作用素の例

不定積分

微分作用素
関数$f$に対して
$D: f \mapsto f’$

ヒルベルト・シュミット作用素
$
\begin{aligned}
Kf(x) = \int^x_{x_0} k(t) f(t) dt
\end{aligned}
$


ディラックのデルタ関数についての注意。

$
\begin{aligned}
\delta(x) = \begin{cases}\infty & x=0 \\ 0 & \text{otherwise} \end{cases}
\end{aligned}
$
Symbolicには
$
\begin{aligned}
\int_\mathbb{R} \delta_0(x) f(x) dx = f(0)
\end{aligned}
$
だけど、
$
\begin{aligned}
\int_\mathbb{R} \delta_0(x) dx =1 ?
\end{aligned}
$
これは謎(by フォン・ノイマン)。ルベーグ積分の意味では0のはず。
本当は、関数列$t_n$をδ関数近似列として
$
\begin{aligned}
& T_n(f) = \int_\mathbb{R} t_n(x) f(x) dx
\end{aligned}
$
$
\begin{aligned}
\lim_{n\to \infty} T_n(f) = \delta_0(f)
\end{aligned}
$
この関数列$t_n$に対して$\int_{\mathbb{R}}t_n dx=1$はオッケー。
関数列$t_n$はディラックのδに「収束」するけど、積分は強収束していない(「強収束しないけど$f$をひっかけることで弱収束はする」という気分)


多様体論の難しさについて

多様体論には、抽象的な接空間(微分作用素の線型空間)が登場する。多変数関数の扱いとして陰関数定理・逆写像定理も駆使する。さらには常微分方程式の解の存在と一意性定理も。

真面目にやろうとすると、それぞれを自在に使いこなせる必要があり、総合力?が必要。

このように微分積分を意識しながらの線型代数のまとまった用語解説はとても助かります。「ディラックのδ関数が線型汎関数???」とぴんとこなかったので、迷いそうになったら、今回の講義に立ち返って確認したいと思います!今回もありがとうございました(_ _)