理論物理学者に市民が数学を教えようの会第06回

理論物理学者に市民が数学を教えようの会第06回 (2020-11-02分)

関数解析と物理 場の量子論の様々な数理と物理

前回の微分積分の例で線型代数を考える話を前提に、今回は関数解析と物理の関係、特に場の量子論の数理の難しさについてのお話でした。


関数解析とは微分積分の線型代数的な側面を突き詰めた分野。特に代数と位相の絡み。位相を使って数学に制約を課して制御する話。偏微分方程式ロンへの応用が身近。

– 直交性←1次独立性の強い形
– 内積から線型位相構造
– ルベーグ積分論 limitの処理


基底と完全系
物理では、基底=完全系

数学ては、
正規直交基底:「基底」〜代数系のキモチ
完全正規直交系:「完全系」〜解析をのキモチ・趣がある


トレースと量子統計
密度作用素$\rho $で、$\mathrm{Tr}(\rho A)$と書くのは、なかなかおもしろい。
$\rho = \sum_{k=0}^\infty |\psi_k\rangle \langle\psi/k|$という完全系の介さずに、$\mathrm{Tr} \rho =1, \rho^\dagger = \rho$を満たす自己共役作用素$\rho$のトレースだけで書かれている。

 


バナッハ・アラオグルの定理
– ヒルベルト空間の弱位相で単位球は弱コンパクトである。特に有界な点列は弱収束する部分列を持つ。
– バナッハ空間$X$が回帰的ならば、$X$のすべての有界な点列は収束する部分列を持つ

これをしっかりと味わえるようになるためには、実数論の勉強が必要。
実数論の公理の1つ「有界な数列は収束する部分列を持つ」の無限次元版がバナッハ・アラオグルの定理・

有限次元では、強位相=弱位相
一方、無限次元では強位相$\neq$弱位相。

バナッハ空間$L^p$:ノルムしか入っていない線型空間。ノルムから決まる距離について完備。バナッハ空間$L^p$は$p=2$のときだけヒルベルト空間。
回帰性とは、$X$の双対空間$X^*$とするとき$X^{**}=X$となる性質のこと。一般には$X^{**}$の方が大きい。
ヒルベルト空間$\mathcal{H}$: 内積が定義されている(ので、これからノルム→距離が定まる)
ヒルベルト空間は必ず回帰的:$\mathcal{H}^{**}=\mathcal{H}$


物理についてメモ。
有限温度の摂動と絶対零度の摂動の振る舞いがかなり違うことについて。後者は$\beta \to \infty$という特異なケースともいれるので、平衡状態とちがって、摂動に過敏に反応する。


相互作用描像の破綻:ハーグのNo-go theorem
公理的場の量子論によると「自由場からユニタリ時間発展でつながっているなら自由場」なので、相互作用描像は破綻しているらしい!!

一方で、QEDの摂動計算のすさまじい予言力。
たしかに、場の量子論を数学的に扱うことと、物理として計算ルールを運用することとの大きなギャップを感じますね…


実数論としっかり向き合わなければという機運が私史上最高度に高まっています😊😊😊

今回もみごとな構成で目からウロコなお話をたっぷりとしていただきました。ありがとうございました!