ABOUT

理論物理学の研究者です。ハドロン多体系の非平衡現象の理論研究で学位取得後、現在はスピントロニクス分野におけるスピン角運動量を媒介とする非平衡現象を研究しています。

特に、従来のスピントロニクスで利用されてこなかった、巨視的物体の力学回転運動を用いたスピン制御、スピン流生成について理論構築しています。理論予言のいくつかについては、最近になって実証実験が行われるようになりました。

巨視的回転運動する物体中の電子スピンの振る舞いを調べるには、従来の慣性系で記述されてきた物性理論を非慣性系に拡張する必要がありました。慣性系の物質中の電子の基礎方程式が特殊相対論的ディラック方程式の低エネルギー近似から導かれるように、非慣性系の電子の基礎方程式は一般相対論的ディラック方程式の低エネルギー近似から得られます。そこには、「スピン接続」とよばれる「時空の歪みとスピン角運動量をつなぐ幾何学量」が登場します。トップページのエメラルドグリーンの図は、スピン接続のイメージ図です。

スピン接続からスピン角運動量と巨視的回転に伴う力学的角運動量とが相互変換するための基本的相互作用である spin-rotation couplingが得られます。2010年から最近まで、四六時中、スピンと回転に悩み続けています。

実証実験に関する最近の大きな成果としては、流体渦運動を用いて液体金属中にスピン流を生成した実験 (R.Takahashi et al., Nature Physics 12, 52 (2016))とレイリー波を注入して銅にスピン流を生成した実験(D. Kobayashi et al., Phys. Rev. Lett. 119, 077202 (2017))があります。従来、スピン流生成物質は固体かつスピン軌道相互作用の大きい物質か磁性体に限定されていましたが、前者は液体が、後者はスピン軌道相互作用の小さい非磁性金属である銅が、新たにスピン流生成物質となり得ることが示されました。

もともと電子スピンと巨視的回転運動の相互変換については、20世紀初頭にバーネットやアインシュタイン、ドハースらによって、主に強磁性金属の局在磁化と強磁性金属の回転運動の相互変換現象として発見されていました。これらは「磁気回転効果」と呼ばれています。量子力学が完成する以前に、この磁気回転効果によって電子のg因子が2程度であることが示されました。

スピン接続およびspin-rotation couplingというのは強磁性体に発現する磁気回転効果に限らず、常磁性体中の電子スピンや、回転する物体中の核スピンや、スピンを持つありとあらゆる素粒子に働きます。実際、回転子に組み込んだNMR装置によって核スピンに働くspin-rotation couplingの測定に成功(H.Chudo et al., Appl. Phys. Express 7, 063004 (2014))していますし、回転する常磁性状態のGd中の電子スピンでも観測されました(M. Ono et al., Phys. Rev. B92, 184405 (2016))。

以上の内容は、日本物理学会誌2017年9月号に解説記事が掲載されました(非慣性系のスピントロニクス_著者最終稿)。

最近では加速器実験によって、クォーク・グルオンプラズマ中のspin-rotation couplingによってハイペロン核がスピン偏極する現象も観測されています(The STAR Collaboration, Nature 545, 62)。

こうした現象に登場する回転のスケールですが、NMRや流体ではkHz程、レイリー波ではGHz、クォーク・グルオンプラズマではZHz = \(10^{21}\)Hzと、非常に広範囲にわたります。

こうした,スピンと回転をめぐる現象については,数理科学のこちらの記事でも紹介しましたのでよろしければご覧ください.

材料科学の新奇な機能性発現を狙った研究に,一般相対論から予言されるスピン依存する慣性力の効果が現れるというのは,とても興味深いと思っています.一方で,アインシュタインらによるスピンと回転の相互変換現象という量子力学成立以前からあった,磁性と角運動量の関係を探る基礎研究を深く理解するためには,スピノル場がうける慣性力を取り扱う理論形式が必要なのですが,普通の一般相対論の教科書にはほとんど登場することがなく,私自身,勉強をするのにも苦労しました.そうした経緯からも,一般相対論の枠組みでスピノル場を扱う理論形式を紹介する教科書を渇望していたので,

では,スピノル場と重力場の相互作用の取り扱いについても解説しました.上述の解説記事とあわせてご覧いただけると幸いです.

こうしたスピンと回転の研究とは別に,運動不足解消と一念発起した2014年。テニスを始めました。YouTubeでフェデラーやナダルの映像をみて、衝撃が走りました。体幹周りの巨視的回転運動を使って、テニスボールのスピンを操っているではないですか。ここにもspin-rotation couplingが!とテンションが一気に上がり、自分自身を実験台に高効率でテニスボールのスピン制御を研究する日々も始まりました(その成果?として,テニス本の共著者にもなりました)。ここに登場する回転は、数100rpm程度=数10Hzです。

このサイトのキャッチフレーズ「寝ても覚めてもスピンと回転」は、こうした、ありとあらゆるスケールのスピンと回転に思いを巡らす私の日々を一言で表したものです。

CV

  • 2008年3月 理学博士号取得(東京大学)
  • 2008年4月から2009年9月まで   高エネルギー加速器研究機構素粒子原子核研究所 研究員
  • 2008年10月から2009年8月まで 二松学舎大学非常勤講師
  • 2009年10月から2010年3月まで 東北大学金属材料研究所 研究員
  • 2010年4月から2012年3月まで 京都大学基礎物理学研究所博士研究員および日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター協力研究員
  • 2012年4月から日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター任期付研究員
  • 2014年12月から ERATOスピン量子整流プロジェクト 核ダイナミクスグループ グループリーダー兼任
  • 2017年4月から2018年3月まで 東北大学材料科学高等研究所 助教
  • 2018年4月から中国科学院大学カブリ理論科学研究所 准教授

特技

  • Mathematicaを用いたアニメーション作成

趣味

  • カラオケ
  • ピアノ
  • ヘビメタ、ジェント、ビジュアル系、アニソン、クラシック
  • 海外SFドラマ、SFマンガ・アニメ