第8回統計物理学懇談会での発表『物質中の渦度を用いたスピン輸送』の参考資料を以下にまとめておきます.

発表スライド(pdf):210330_matsuo_統計物理学懇談会

(pdf内のアニメーションgifは,以下に掲載しておきました)


今回は,非磁性金属中の渦度勾配によってスピン流が生成されるという現象をお話します.

解説記事としては,

をご覧ください.

スピンと渦度の相互作用は,非慣性のスピノル場の基礎方程式である一般共変ディラック方程式から得られます.これは,一般ゲージ理論という枠組みで理解することができます.一般ゲージ理論の初等的な解説については,

一般ゲージ理論の本格的な解説については,

を参照のこと.

 

 

 

 

このアニメーションは,スピンの方向の揃っていない伝導電子たちが,物質中の渦度(局所回転運動)と相互作用することで,スピンの方向が揃った流れ「スピン流」になることを表現しています.

 

非磁性金属が回転運動をすると,その中の伝導電子は非慣性系の物理法則に従います.とくにスピンに働く慣性力を含む電子のハミルトニアンは,非慣性系のスピノル場の基礎方程式である一般共変ディラック方程式にたちかえり,その低エネルギー極限によって得られます.


Gyromagnetic spin Hall effect

電磁場中で回転する電子のハミルトニアンは,

こちらで導出し,磁気回転効果を用いたスピンホール効果が可能であることを示しました.

York Univ.廣畑グループによる実証実験はこちらです:


Gyromagnetic Stern-Gerlach effect

前述のgyromagnetic spin Hall effectでは,

  • PtやWのようなスピン軌道相互作用の大きな物質
  • 磁場と剛体回転

が必要でした.一方,流体運動や弾性変形運動を用いることで,渦度勾配方向にスピン流が生成する機構を提案しました.これは,

  • CuやAlのようなスピン軌道相互作用の小さな物質でもスピン流生成源に使える
  • 磁場不要

という特徴があります.以下ではGyromagnetic Stern-Gerlach effectによるスピン輸送現象として

  • Gyromagnetic spin-torque ferromagnetic resonance
  • Spin hydrodynamic generation

という2つの現象を紹介します.


Gyromagnetic spin-torque ferromagnetic resonance

CuやAlのようなありふれた非磁性金属に表面弾性波を励起してスピン流生成する理論予言は

表面弾性波の励起した物質中の渦度分布を矢印で表したアニメーションです.この渦度の勾配方向にACのスピン流が生成されます.

慶応大能崎グループによる実証実験は

これらの実証実験では,非磁性金属中に表面弾性波を励起してスピン流を生成し,そのスピン流が強磁性体に注入されて,強磁性共鳴を起こしています.

Gyromagnetic spinwave resonance

類似の現象として,強磁性体に表面弾性波を励起して,強磁性体の磁化と渦度の相互作用を使ってスピン波を励起する実験にも成功しています.

Non-reciprocal spin current generation in a gradient material

また渦度が登場する現象としては,傾斜材料中の不均一な電気伝導によって生じる渦度勾配からのスピン流生成が観測されました


Spin hydrodynamic generation

石英管に液体金属を流すと,やはり渦度勾配が生じてスピン流が生成されます.

このスピン流は液体金属自身のスピン軌道相互作用を通じて電流に変換されるので,スピン流を媒介とする新しい流体発電にもなっています.

 

 

理論は,

実証実験は乱流状態の水銀とガリウム合金について

層流状態の水銀について